今日のご飯をおいしく食べよう。


世界がもし今日で終わるとしても、

起こされたとき、もう既に朝とは呼べない時間になっていた。
「おはよう」
キスで目が醒めるなんて、一体どこのお姫様だと、虫唾が走る。
吉良は上機嫌でも、こちらは体が軋んで痛む。
むしろあんなに遅くまで起きていたのに、
こいつはなんでこんなに元気なのか。

「なんで……」
「え? 今日は土曜日じゃあないか」
言いかけた疑問の先を勝手に推測して、返事が帰ってくる。
あながち間違いでもないが、
質問は行く当てをなくして宙に浮いた。

「ご飯食べるかい?」
「いや、いい……」
出した声は思ったよりも掠れて、小さくなる。

こちらが辛そうなのを見て、吉良はせめてもの配慮とばかりに言う。
「じゃあ昼ご飯からおいで」
猫撫で声が絡みつく。
なんと、不自然なことか。

たまらず声をかける。
「……なんでそんなに機嫌がいいんだ?」
そもそも、食事の時間が乱されることを吉良は嫌がる。
いつもだったら布団を爆破する勢いで起こされるのに。
そして起きなければ実際に爆破されるのに。
そいつがご飯を今食べるか、なんて。

エプロン姿の吉良は、いつもは見せないような微笑みをたたえて振り返った。
「今日がまた来て、君に会えたからだよ」
面映ゆい。
ざわざわと皮膚の下を何かが走り抜ける感覚がある。
決して不愉快ではない。
だから、困るのだ。
「そうか……」
布団で顔を隠しているから聞こえていないかもしれない。
別に、いい。
また今日が来て、
吉良のご飯を食べられることを喜んでいるなんてことは、
吉良は知らなくていいことだ。

睡眠時間は十分で、目はしっかりと冴えた。
ただひたすら体が重く、起きる気にはなれない。
吉良から許しが出たのだから、何をするでもなく寝転んだままでいる。
どれほどの時間が経ったのか分からない。
目は覚めているはずなのに、
夢とも現ともつかないところにいたような感覚から、
吉良の声でひっぱりあげられる。
「昼ご飯だよ」
「ああ、今行く」

世界は昨日で終わらなかったが、
もしかしたら今日で終わるかもしれない。
それでもまた明日が来たら、
吉良のご飯を食べられることを喜ぼう。

- continue -

2015-10-10

甘い話第三弾。段々短くなってしまったと思ったのですが、そんなことは無かったです。

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